ニコンレンズシリーズE 75-150mm F3.5(NEW) 2010.10.24
手に入れた個体はレンズの前玉や後玉はきれいなものの、 内部はかなりゴミと言うかキズなど劣化が激しい状態です。 テストしましたが、それほどコントラストの低下も感じられずこの年代の中古レンズとしては中庸なものでした。 と、ここまでは前回6月のレポートでありました。暫くぶりに再検証です。 カメラD90。RAW。マニュアル露出。 露出は1枚目、3枚目のみプラス補正。シャープネスはナチュラルファイン(WEB可視上の劣化を補うため) 彩度は20%プラス(これも記憶色にやや近づけるため)しております。 |
ピントの合っているところはなかなかにシャープ。軸上収差が残存しており高輝度の被写体は色が滲むので、 今回のような曇天は都合が良い。何より当個体は、経年劣化のためズームリングがスカスカなので撮影は大変。 絞り5.6。1/160秒。プラス0.7補正。曇天。 |
開放値でのボケを見ます。ピントは花の後ろにあってます。絞り開放F3.5。1/100秒。曇天。 |
かなり暗かったので微妙にぶれがある。絞りF5.6。1/160秒。プラス1補正。曇天。 |
ゲストによる撮影。初めてのマニュアルレンズなのに撮れている・・・・・。しかも逆光で暗いのに・・・・。 絞りF5.6。1/160秒。 |
やはり後ボケはなかなかに良いと思います。 さすがに75mm域の方がシャープに感じますが、150mmでも充分な解像力はあるようです。 かなりピントにはシビアーで、D90のファインダーは明らかに力不足です。 43-86mmと同じレンズラインにあるので、この二本があれば通常の撮影はOKですね。 ニッコールでないニコンのレンズと言えばニコンEシリーズのレンズですね。Eシリーズとは1979年から1981年にかけて、ニコンEMカメラのために企画発売された新基軸のレンズ群を言います。 ニッコールを冠しないレンズとは言えど実に気になるレンズなのです。この感覚は往年の名レンズ43-86mmに相通じるものがあります。 このレンズについては多くの人が色々とコメントをしています。ニコン製ではないとか、単なる廉価品だとか、プラスチックを採用したニコンらしからぬレンズだとかそして極めつけはスカスカになるズームが難点など。 しかし「ニッコール千夜一夜物語」(ニコンホームページ、著者:大下孝一氏)によりますと開発の大変さが良くわかります。小型マニュアルカメラEM装着を第一に、カメラの普及を図ったニコンの普及化戦略商品だったのです。現行のレンズの性能を落とすことなく廉価なレンズを開発する使命があったのでしょう。このレンズはニコンの設計者が設計し材料まで吟味したオリジナル開発商品だったのです。巷に出回る外部製造論ですが、考えるにガラスの材料が廉価であれば、異種類のガラスを製造することは返ってコスト増になる論理、内製は無理であったろうと推察されます。もしそうであったにせよ、これを以ってニッコールでないと言うのは正にナンセンスなのです。Eシリーズはカメラマンのためのコンセプト商品だったのです。 また直進式ズームのスカスカ状態ですが、構造上消耗が激しくこのような廉価レンズの場合は性格のようなものだと認識するしかありません。然るに撮影にはそれほど支障がない、というよりそのような機材の性格を理解し使い込むことこそ写真家なのです。 実は、ニッコールクラブ配信の「ニッコール千夜一夜物語」の最終号はこの「ニコンレンズシリーズE 75-150mm F3.5 」なのです。その前号が名レンズ「Ai AF Nikkor 85mm F1.4D(IF)」です。ニッコールレンズを紹介するコラムなのに、ニッコールの名がないシリーズEのレンズがなぜ最終号なのか不思議に思う御仁も多いことでしょう。85mmF1.4は高価で凄いニコンを代表するレンズだから、同格に扱うのが不思議と思われることでしょう。実は連載を読んでその理由がわかりました。「Ai AF Nikkor 85mm F1.4D(IF)」を設計開発したのは、最終回で「ニコンレンズシリーズE 75-150mm F3.5」を執筆したご本人だったのです。Eシリーズのレンズは大下孝一氏の先輩が設計開発した製品であったのです。恐らく氏はこのレンズを範として名玉を世に送り出したのです。 良い材料を駆使すれば良い商品が出来るのは自明の理です。しかし、いくら高性能でもそれが高価に過ぎれば写真産業も発展はし難いことでしょう。エンジニアプラスチックを採用し重量を抑え小型化を進めるノウハウは現在においても連綿と引き続いています。 正にニコンEシリーズは時代を見据えた商品だったのです。 レンズのボケはいかに球面収差を上手に残すかだ、と開発者の方は説かれています。この廉価品と言われる普及型のレンズにも少しの手抜きもしない設計者の情熱と良心は、はたして稀に見るヒット商品を生み出す事となったのです。 (参考資料 ニコン ニッコール千夜一夜物語) 発売時(1981年)価格が54,000円と知っていささか驚きました。それは当時の43-86mmが44,000円であり、大きさが違うとはいえ二倍ズームには変わりがありません。片やニッコールでありこちらは非ニッコールレンズです。まあ当時のズームとして75mmから始まるレンズは各社とも7万円を超えていただろうから、確かに廉価ではあったのです。43-86mmはとても息の長い製品でありましたが、世評はあくまでも中庸。とりわけ高性能という話は聞いたことがありません。対してEシリーズ75-150mmは非常に評価が高いレンズなのです。過去のレビューにも極めて高解像なレンズと誉が高いのです。それは廉価品にしてはということを除いての話なのです。稀有なレンズであったのです。いや、ニコンならば当然であったのでしょう。 |
<参考> 焦点距離:75mm-150mm。 レンズ構成:9群12枚構成。開放値:F3.5.最小絞り:F32. 重量:520g。フイルター径:52mm。 発売年:1981年 発売時価格:54,000円 |
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