ピアノ東京写真PLUS ピアノ編

ピアノとピアニスト    2019.11.8

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ピアニストはどうやら、私たちが考えるより大変な職業らしい。 

曲を披露するのが仕事なのですが、簡単に幕開けとは行かない真実があるようです。

ピアニストは他の演奏家と異なり、大きなハンディキャップを背負っています。 理由は一つ、ピアノは基本的に持ち込めないからです。

演奏会のピアノはフルコンサートピアノで、重量はおよそ500㎏。 多くは、演奏家の所有するピアノとも違うと言います。


真っ新なピアノもあれば、数十年経ったピアノもあります。 コンサートホールも、一つとして同じ会場ではありません。

しかも、大ホールと中ホールでは残響も違いますから同じ音にはなりません。 ピアノは響板に音を反射して客席に届けるものですが、

客席での音は座席によって大きく違って聞こえます。 フルコンサートピアノにもなりますと、ピアノの置く位置を10センチ変えただけでも音が

変わると言います。 また、リハーサル時は残響が多く、人が入ると衣類により吸収され響きが違ってきます。


ピアノはリハーサル時から本番まで、数時間照明に当てているだけで音が狂うのだそうです。 本当は数曲だけでも調律が必要だと言われます。

ピアノ自体も、叩かれる音は大体決まっていて、それらのハンマーの劣化は凄いらしいですね。 88鍵盤の中に新品同様のハンマーと、溝が深く刻まれた

ハンマーが同居するのです。 鍵盤とハンマーの間には50程の部品があります、それが88組ある訳ですね。 フエルト類も使う音だけ痛みます。


これらの面倒な調整は、ピアニストの範疇ではありません。 どのようなピアノでも、演奏しなければならないのです。

毎日馴染みの自宅のピアノではなく、初対面のピアノであると言う事です。 ピアニストは、リハーサル時にピアノの癖を理解しようと奮闘します。

もう一つピアノの問題は、チューニングが変えられないことです。 ほとんどの場合、微妙に他の楽器と合わないのだそうです。

バイオリンなどは自在にコントロールできますが、ピアノはその場では何もできません。 ピアニストにとってのストレスだそう・・・。


聴衆は、完璧に録音補正されたCDを聞いています。 多くの人は、生の演奏の音の響きのギャップに悲観するそうです。

そう、生演奏はピアノには厳しい条件なのだと思います。 音の良い各席の位置は非常に狭いのです。


ほとんどの人は自宅ピアノ演奏は普通のピアノです。 寸法を押さえるために弦はクロスして張られています。 それが、響きに良からぬ影響を与えます。

ピアノを弾いている人は分かりますが、演奏者の位置と離れた位置では違う音が鳴っています。

演奏者は、響板に反射するうなりを常に聞いています。 離れると、うなりがうなりとしては大きく聞こえません。


ピアノの録音が難しいのは、そういうところにもあります。 マイクの位置でまるでピアノの音が変わってしまうからです。

ハンマーの叩く音やアクションの出す音、ペダルを操作する音、ダンパーの音など様々な音がピアノからは出ています。

演奏者の位置は直接音が多く、それらの音はマスキングされてしまう傾向があります。  しかし、マイクは容赦なく拾ってしまいます。

空調の音、人のせき込みなど雑音は常に存在します。 ピアニシモでは、残念ながらそれらの暗雑音が目立ってしまうかもしれません。


このように、ピアノは見かけによらず非常にデリカシーに富んだ楽器なのです。 


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