白黒写真の素晴らしさ


白黒写真の面白さは、色がないので色々なイメージで作品を創造できることと思います。

カラー写真は、厳密な化学処理なのでノーマルプリントを作るのが第一で、しかもこのノーマルプリントが簡単にできないという作品以前の問題があり、作業自体は決して面白いものではありません。ただひたすら、一定値になるように努力するだけです。
しかし、白黒写真はそうではありません。
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フイルムの過程でも、プリントの段階でも自由に作業ができます。 軟調にも硬調にも、思い通りに作品を焼くことができます。印画紙の種類も豊富で、手触りの質感なども多彩です。 調色の楽しみもあります。 覆い焼きや焼きこみの作業は、白黒写真の最も得意とするところでハイライト部分を自由にコントロールして白黒ならではの作品を創りあげることができます。 覆い焼きや焼きこみは、もちろんカラーでもできるが露光時間が白黒に比べて短いので、難しくなるのです。 出来上がった作品は、しっかりと定着させれば数十年も持つプリントとなります。
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また、フイルムの現像もカラーに比べれば難しい訳でもなく、失敗も少ないことです。 フイルムも価格が安く、メーカーによる個性もあり選ぶ楽しみもあります。 カラー全盛の世の中ですが、自家処理においてはまだまだ白黒のしめる割合は多いでしょう。 薬品や印画紙なども豊富に販売されているので、カラー処理を始める前に白黒処理から入るのも得策です。 印画紙や薬品以外は大部分の機器は共用できるので、ムダもでません。
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白黒写真というのは、当たり前ですが白と黒のコントラストだけの世界です。つまり、コントラストを思い浮かべて撮影すればいいわけで、根本的にカラー撮影とは概念が違うのです。 
カラー写真では冴えない状況、色の少ない被写体やコントラストが高い条件下での撮影は、正に白黒写真の独壇場となります。
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カラー写真を見ているとわかるように、実際我々が日常目にする自然界の視界に「黒」というのは存在しません。 全てのものがある程度の反射率を持っているからです。暗室でなければ真の「黒」は体験できないのが普通です。 ところが、白黒写真はいともたやすく「漆黒の世界」を同じ画面上に再現してしまいます。 これが白黒写真の特異性なのです。 この特異性を利用するのが、白黒写真の撮影と作画のコツとなるのです
。 
モノクロ写真、つまり白黒写真では通常はこの特異性をコントロールすることがベターとされています。 階調豊かなネガを作り、階調豊かなプリントを作成することを第一とするわけです。ただここで注意しなければならないのは、階調を出すのは白黒写真の基本ではあるがそれは基本であって、メインではないということです。
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白黒写真は、階調を重視し過ぎるとコントラストの不足した「眠い」作品になってしまいます。 また、極端に焼きこみを多用した作品は見た目が不自然でおどろおどろした作画になるケースが多いのです。 一枚ならいいが、展示会などでそのようなプリントを沢山見せられるのは苦痛のこともあります。
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ドキュメンタリーを撮るのなら、ありのままにプリントするのがいいでしょう。 ネガフイルムの情報は多く、印画紙のダイナミックレンジをはるかに超えているので
どうしてもネガに写っているものは再現したくなるのはわかりますが、不要の焼きこみ・多い焼きは決して作品のレベルを上げることにはならないのです。 
シンプルイズベストではありませんが、ノーマルで印画紙に再現できない部分は情報としては、不要部分なのだということも考える必要があるでしょう。 白黒の世界では、色で形を認識することはできないのです。 コントラストだけが対象を認識させるのです。
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作品造りにあたっては、そういう点で撮影段階で全てが決まるといってよいでしょう。 撮りたい対象が、印画紙に再現されるのかどうか撮影段階で見当を付けるのです。 

カラー全盛により、色のない白黒写真は風景写真からは疎外された感もありますが、実は白黒写真の本領は風景写真にあると言っても過言ではありません。
低感度の微粒子なフイルムを使用すれば、緻密で繊細な風景写真を撮ることが可能です。 白黒フイルムは被写体の色により感光特性が異なるので、空や雲が入るのならば、撮影段階でフィルターを使用しコントラストを整えておくのがベストでしょう。 
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白黒写真は前述の通り、コントラストの産物ですから実際の撮影にはフイルムの種類とともに、レンズの特性が大きく作画にかかわってきます。

レンズは様々なコーティングが施されており、メーカーによって作画にはかなりの違いがでてきます。 また、レンズ構成により光の透過率も異なるので、レンズ構成や構成枚数によっても微妙に差が生じてきます。 いちがいに言えませんが、一般的に古い時代のレンズは比較的コントラストの弱い調子になり、最新のレンズはコントラストの強めの調子になる傾向があります。 そういう意味では、白黒写真では古いレンズも充分実用になると言えるでしょう。

カメラやレンズは、その時代時代において高性能を追求していたわけで、20年30年経ったレンズでもなんら不自由なく写真が撮れるのは、写真世界ならではのことです。 
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著名写真家による、昭和初期撮影の白黒写真集などが発売されていますので参考に見てみるのもいいでしよう。 白黒写真の実力と可能性を発見できると思います。

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