P-610は三菱電機が1958年に開発した、ダイアトーンブランドの16センチシングルコーンスピーカーユニットである。
価格は発売時価格1950円。販売は1958-1996年。1996年にはP-610MBとなり販売価格は10000円であった。
細部は改良が加えられているがアルニコマグネット仕様は変わらず、時代を考えると価格価値は変わっていないと言って良い。
一般的なものはP-610A(1970年頃発売)で、再生帯域は80-13000HZと拡張された。

このスピカーはNHKの規格に初めて合格した製品である。帯域は(P-610)80-10000Hz、許容入力は3Wであった。
多分に業務用として使用されたものなので、製品としての豪華さは全くない。超低域も超高域も出ないスピカーユニットではある。
しかし、その素直な音は機器の性能、録音の良し悪しの全てをさらけ出すとしてオーディオファンに恐れられたのだ。

現在でもそうだが、モニターに最適なスピカーシステムはオーディオ用と一致することはない。全てをさらけ出さなければならないということは、
重箱の隅を楊枝でほじくると言う聞き方になる。これでは聴く方は疲れるだろう。
P-610は現代のスピカーユニットではないから、帯域は狭いが当時の環境では必要にして充分な製品であったと言える。

放送局で使われるスタジオモニターには、シングルコーンスピーカーユニットでは物足りなく、多くは2ウエイ、その後は3ウエイのものが採用された。
P-610Aのシングルコーンスピーカーユニット・スピカーシステムはDIATONE R-16として、放送局にて一般使用として使われていた。
スタジオ用として、NHKと三菱電機の共同開発で、DIATONE 2S-208が1961年に誕生している
このスピカーには20センチのPW-201、5センチのTW-501が使われている。その後DIATONE AS-2001と言うアンプ内蔵システムも開発使用されたが、使用しているユニットは同じである。この2ウエイにより再生帯域は60-15KHzとなり、放送機器として充分な帯域を得て長く使用されることとなる。
余談だが、NHKに納品の型番はR205で、これはNHKの指定納品番号。三菱ではR205形モニタースピーカと称する。
寸法は70x53x31cm重量20Kg、内部には取り外し可能なバッフルにPW-201とW-501、ハイカットコンデンサーが取り付けられている。
当時の一般価格21万円(1984年)、終了時価格42万円。中古でも30万円近くする名品だ。

なお、ツイターTW-501は1971年頃に3000円で、PW-201は1970年頃に6000円で市販されていた。

なお三菱電機は1999年に民間音響部門から撤退している。1998年発表のDS-20000B Klavier(55万円)が音響としての最終製品。その後
三菱電機エンジニアリングとして高級音響製品(ダイアトーンブランド)が立ち上げられたが、1種のみの受注製品であり一般的なオーディオ製品は消滅したと言って良い。
しかし、50年以上にわたり優秀な音響製品を作り続けてきた三菱電機は偉大なメーカーであると言って良いだろう。
テクニクス同様、新生ダイアトーンブランドが根を張りオーディオファンの前に現れることを期待したい。


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